有期雇用であることを理由とする不合理な格差を禁じた労働契約法20条。2013年4月施行のこの規定を生かそうという裁判が各地で行われている。これまでの司法判断は一進一退だが、課題も見えてきた。提訴も増えつつある。均等待遇実現へ、新制度に魂を吹き込むたたかいは最初の正念場を迎えている。
●可能性だけではダメ
同法20条は、賃金や手当だけでなく、休暇や福利厚生などあらゆる労働条件が対象となる。不合理な格差を是正するのが目的で、裁判で使える仕組みとして整備された。
最も早く判断が示されたのが、物流中堅会社のハマキョウレックスでの裁判。契約社員の運転手が各種手当、一時金、定期昇給、退職金の格差は違法と訴えていた。一審は通勤手当の格差だけを違法としたが、二審の東京高裁は7月、個別の手当ごとに検討を加え、無事故手当、特殊業務への作業手当、給食手当の格差を違法と断じた。
だが、住宅、皆勤の両手当は認められず、定昇や一時金、退職金については正社員との就業規則の違いを理由に一蹴している。
この格差容認の根拠とされているのが、「配置の変更」など人材活用の違いである。配転・出向の可能性を指す。
棗一郎弁護士は「人材活用の仕組みが違えば労働条件の違いは仕方ないとなれば、20条はあまり使えないということになりかねない。(配転・出向の)可能性だけではだめで、(全ての正社員が実際に配転されているかの)実態を見るべきだ」と話す。
●マジックワードに
最近注目されたのが、長澤運輸事件。定年後再雇用の原告が、全く同じ仕事をしているのに、正社員との賃金格差は違法と訴えた裁判だ。一審は原告全面勝訴だったが、二審は逆転全面敗訴となった。
二審の東京高裁は「職務内容が同一でも、賃金が下がることは広く行われており、社会的にも容認されているから、不合理性を基礎付けるものではない」と言い切った。事実認識は一審と変わらないのに、全く違う判断を示したのである。
判決が格差を「社会的に容認されている」としたことについて、宮里邦雄弁護士は「『それを言っちゃおしまいよ』という判断。20条は不合理な差別を是正するための立法で、それを検証するためにあるはず。実質的に20条を否定した判決と言わざるをえない」と厳しく批判する。
同条は判断の考慮要素として(1)職務の内容(2)配置の変更(3)その他の事情――を記している。二審は働き方のありようではなく、「その他の事情」を最優先したのである。
「曖昧な概念で、マジックワードとなりうる。非常に警戒が必要だ」。宮里弁護士は警鐘を鳴らす。
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