2012年に発表された自民党改憲草案。9条改悪などが大きな注目を集めますが、両性の平等などを定めた24条にも手を付けています。自民党の新24条は「家族は社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない」と規定しています。その危険性とは?
●「家族」が基本単位に
現行24条は、「個人の尊厳と両性の本質的平等」などをうたっています。
改憲草案は、「個人」より「家族」を重んじるもの。これによって「家族責任」が強化され、「育児や介護は在宅で」という世論が生まれると、社会保障サービスの後退が懸念されます。
DV(家庭内暴力)などによる離婚訴訟を扱う打越さく良弁護士は、「伝統的家族主義を復活させようというもの。でも、女性たちの意識も変化しており、なかなかうまくはいかないでしょう」と言います。
●現行24条の徹底こそ
打越さんは、今春スタートした三世代同居促進政策にも批判的です。
「『三世代同居できないの私だ』って誰か怒ってますか? そうではなくて女性たちは『保育園落ちたの私だ』って怒ってるんですよ。同居しても、老いた父母たちはいつ要介護状態になるかもしれない。育児を手伝ってもらうのはしのびない。だから保育園に預けて働くことが女性たちの望みなのです」
打越さんは、「両性の本質的平等」は現行憲法でうたわれていても、現実の夫婦間では実現できていないケースが多いと言います。パートナーから虐待を受けても、それを自覚できない女性もいます。既婚女性の96%が夫の姓を選択している事実、夫婦同姓しか認めない民法の規定がいまだに「合憲」とされる事実も見過ごせません。
「24条は(連合国軍総司令部のメンバーとして憲法制定に関わった)ベアテ・シロタ・ゴードンさんが差別に苦しんでいた女たちのために制定してくれたものです。改悪するのではなく、現行憲法の趣旨を徹底すべきです」
●「結縁」根づく社会に
24条改悪により「家庭がブラックボックス化する」と指摘するのは介護福祉士でライターの白崎朝子さん。
今年3月、徘徊中に列車事故で死亡した認知症男性の遺族がJR東海に損害賠償を求められた裁判では「家族に賠償責任なし」とする最高裁判決が出ました。「画期的判決」との評価が多いものの、白崎さんは「家族の役割を強化する可能性がある」とみます。
死亡した認知症の男性は、要介護1の妻と「長男の嫁」が介護していました。その「嫁」は夫と別居して、義理の両親の家に住み込んで世話をしていました。もし妻とその「嫁」による献身的な介護が情状酌量の理由ならば、今後似たような事件で「家族責任あり」とされるケースが出てくるかもしれません。施設などに預けたりしていたら、家族の責任が問題にされたかもしれないからです。
白崎さんは「家族の形は今後ますます多様になります。血縁より(地域や仲間による)『結縁』が尊重される社会を望みたいですね」と語っています。
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