首都圏非常勤講師組合とその分会である早稲田ユニオンが4月6日に記者会見し、3年前から続いてきた雇用と賃金の紛争がほぼ決着したと発表した。非常勤講師の賃金については、18年までに13年度比で10%引き上げることとした。これにより、組合は一連の告訴・告発を取り下げる。
「早稲田大学事件」の発端は13年の2月。大学側が非常勤講師の雇用について「5年上限」と持ちコマ数削減を打ち出し、就業規則を改定。その手続きに問題があるとして、非常勤講師らが労基署に刑事告発する事態に発展した。
同年9月には早稲田ユニオン(現在160人)を結成。団体交渉を重ねるなかで、昨年11月には(1)5年上限を撤廃し無期雇用を認める(2)既に5年上限を適用されていた日本語非常勤インストラクターの復職と70歳までの就労を認める(3)コマ数削減幅を緩和する――などの内容で合意した。
その後、外国人講師との間で一コマ当たり年間10万円もの差があった賃金の引き上げを交渉。今年3月には、賃金制度の一本化と13年度比10%賃上げで合意できた。今後、外国人との賃金格差をなくすよう「努力する」ことも大学側が約束した。このほか、一律月額6000円だった「出校手当」を一コマ3000円とし、コマ数に応じて手当が増えるよう改善した。
交渉の中で、外国人講師でありながら日本人講師の賃金しか支払われていない人たちが、少なくとも100人いることが判明。こうした外国人間での格差をなくすことも合意した。
〈解説〉団結の力で要求実現
3年間で主な組合側要求はほぼ実現できた。その原動力は、やはり組合の数の力だ。当初、首都圏非常勤講師組合に加入していたのは10人程度。それが闘争開始後に加入者が相次ぎ、一気に100人を超えた(現在160人)のだ。
講師組合の松村比奈子委員長は「非常勤講師は専任教員の引きで仕事をするようになった人も多く、目立つことはしたくないのが本音。でも、5年上限やコマ数削減では生活ができなくなるという危機感が大きかった」と振り返る。
団体交渉とあわせて、大学内外で共感を広げる運動にも取り組んだ。就業規則変更に関する従業員代表選挙では、日本弁護士連合会元会長の宇都宮健児さんや、作家で活動家の雨宮処凛さんが組合候補に推薦文を寄せ、それをアピール。組合員数をはるかに上回る得票を得たことも、大学側には大きな圧力になったという。
ツイッターやブログを積極的に活用したほか、ジャーナリストらと連携して「早稲田はブラック大学」というメッセージを発信するなど、世論対策にも力を入れた。
早稲田ユニオンの大野英士代表(委員長)は「もともとまとまりにくいと思われていた非常勤講師たちだが、組合の団結は最後まで崩れなかった。世の中にも非正規労働の不条理や状況悪化に対し、どこかで『このままじゃまずい』という空気感が出てきたように感じる。その流れとうまくかみあったのではないか」という。会見では「世の中の非正規労働者の待遇改善を進める上で、私たちの闘争を励みにしてもらえればうれしい」と語った。
コメントをお書きください